「音をもっと大きくしてください!」というと音屋が嫌な顔をする理由をデザイナーがわかるように説明してみた
音楽や音声を制作しているとかならず「もっと音を大きくしてください」というオーダーが発生します。長年やっていると1度は絶対に言われる単語で、我々のような業種は、このオーダーに対していつもどのように対応したものか、と悩みが尽きません。
なぜ悩んでしまうかというと、「音を大きくする」こと自体は可能なのですが、大きくすることによって失うものも出てきてしまいます。ですが、失われてしまうものが何なのか、専門家ではない方に説明するのは非常に難しいのです。
我々もお仕事ですから、出来ない・やりたくない、といった事は言うべきではありません。なぜ良くないのかを、先方に理解していただき、良い選択をしていただくことが重要になります。
そこで、今回はこのような投稿をしてみようと思いました。
「音をもっと大きくしてください!」というと音屋が嫌な顔をする理由をデザイナーがわかるように説明してみた
実際の現場では「音が小さいので大きくしてください」というオーダーを受けます。このような場合、クライアントさんのイメージでは画像のように、大きなポスターで印刷したり、同じサイズの紙であれば人物を大きくトリミングしたり、といったイメージを持たれているように感じます。画像データと同じであればトリミングしてしまえば済むことなのですが、音楽のデータは上限が -0db(マイナスゼロデシベル)と決められており、単純に拡大することは難しいのです。
上限が決められているので、「音を大きくする」ためには外部装置や再生ソフトウェアで音量を制御して再生することになります。画像データであれば拡大してはみ出した部分は切り取られてなくなってしまいますが、音楽データで音量を大きくした場合は、-0dbを超えた部分は無くならないので、音が割れてしまいます。
音量と音圧は違うもの?
デザイナーに伝わるように画像に例えて説明しようと思います。
※画像はクリックで大きくなります
-0dbを超えると音割れを起こしてしまいます。これを音楽では「音が割れる」とか、「音が歪む(ひずむ)」と表現します。
ですので、音量は-0dbに到達した時点で上げることは出来なくなってしまいます。
でも実際には同じ音楽ファイルでも大きく聞こえるものと小さく聞こえるものがあります。
これは、大きく聞こえるために圧縮をかけて音圧が高い状態になっているからです。
「もっと音を大きくする」を画像で例えるとこんな感じ
※画像はクリックで大きくなります
今回はわかりやすく説明するためにphotoshopのメッシュ変形を使用して「圧縮」してみました。
画像はトリミングできますのでメッシュが外にはみ出しても構いませんが、音楽の場合ははみ出すと割れてしまいますので、もとの画像の中に全てのメッシュを無理やり詰め込む必要があります。
一応、人物が大きくなりましたが、背景は圧縮されてゆがんだ状態になってしまいました。音を無理に大きくしようとした時に起こっている現象を、画像で表現するとこのようなイメージになります。
一言で言うと、”これは如何なものか”というような画像になってしまいました。
※画像はクリックで大きくなります
大抵の場合「音を大きくしてください」と言うと音楽製作者が思わしくない態度になります。
これは、音を大きくすることで質感や持ち味が失われ、”如何なものか”という状態になってしまう為です。
音圧は上げたらダメなの?
むしろ重要な工程です。
弊社では適正な値になるように調整して納品していますよ!
音圧を上げることそのものが悪いわけではありません。制作の最終工程では「マスタリング」もしくは「プリマスタリング」とよばれる工程があり、最終的な音圧を調整してより心地良い音に仕上を行います。この仕上げによって聞こえる音の大きさや質感は大きく変化します。プロの現場ではこの仕上げのみ行うマスタリングエンジニアという職業が存在するほど奥が深い作業です。
※マスタリングとプリマスタリングの区別については今回は割愛します
別の角度で例えてみよう
先ほどは音の大きさを画像のサイズで例えましたが、今度は画像の色に置き換えて見ましょう。
※画像はクリックで大きくなります
音量をトーンカーブだと考えた場合、ある程度までは色を濃くしたり、コントラストを強くしたりといったことは可能だと思います。よりシャープな印象にしたり、明るくしたりと、様々な方法が行えると思います。
当然ですが、これもやりすぎると”如何なものか”というものになってしまいます。
※画像はクリックで大きくなります
画像のように、顔も背景も白飛びしていて、非常に個性的というか、元の写真の質感は完全に失われてしまっています。
「こんな極端な!」と思うかもしれませんが、音楽製作者目線でいうと、これくらいの感覚はリアルに求められていることが多いです。
我々としては、もちろん対応可能ですが、より良い物をお届けする、と考えた時に「もっと音を大きくする」ことが最良の選択では無いと考えられることもあります。
「それでもいいから大きくしてほしい」という場合にはもちろん、しっかりと対応しますよ。
音を大きくした時のリスクをしっかりと認識した上で、最良の選択ができると良いですね。
今回の企画、どうでしたか?
なかなか現場で遭遇した時に言いづらい内容なだけに、敢えて記事にしてみました。
発注者、製作者の双方にとって、良き判断材料になると嬉しいです。
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